東京高等裁判所 昭和51年(行ケ)31号 判決
原告主張の請求原因事実は、すべて当事者間に争いがない。それによれば、本件審決には原告主張の違法があるというべく、原告の本訴請求は正当であるから、これを認容する。
〔編註〕 本件における事実関係は左のとおりである。
第一 当事者の求めた裁判
原告は、主文同旨の判決を求め、被告は、「原告の請求を棄却する。訴訟費用は原告の負担とする。」との判決を求めた。
第二 請求の原因
一 特許庁における手続の経緯
原告は、昭和四〇年七月二〇日登録出願、昭和四五年一〇月二九日実用新案登録第九一四四一六号「ホース捲回具」の実用新案権者であるが、被告は、同年一二月三〇日特許庁に対しこの登録実用新案権について登録無効審判の請求をし、この審判請求は、昭和四六年審判第八〇六号事件として審理されたところ、昭和五一年二月三日「登録第九一四四一六号実用新案の登録は、これを無効とする。」旨の審決があり、その謄本は、同月二五日原告に送達された。
二 本件考案の要旨
「外周にホースが多重巻回され中央部に空隙部を形成した回転ドラムをして、その中心軸方向に嵌合されホースの端部が接続せる流通管を介して回転自在となし、該空隙部には該回転ドラムの捲き戻し機構並びに歯車、係止爪による自動停止装置を一体に収納せしめると共に、該自動停止装置の係止爪を回転ドラムの内壁面に回転自在に軸支すると共に発条を介し常時前記歯車の外周面に衝接せしめ、又歯車を上記流通管に嵌合固着すると共にその周囲に所望間隔毎に係止爪と係合する歯部並びに該係止爪の先端より軸部までの長さより少しく大に形成された深さの切欠部とを設け、ホースを巻回する際に係止爪が切欠部に強制的に落入されて該歯部との係合が解かれるようにし、一方前記回転ドラムを支持した流通管は、該回転ドラムに対し別に設置されると共に流体の流入口を具備したドラム受体に対し回転自在且つ挿脱自在に構成されている事を特徴とするホース捲回具。」
三 審決理由の要点
本件考案の要旨は、その明細書と図面の記載、特に実用新案登録請求の範囲の記載からみて、
(1) 外周にホースが多重巻回され中央部に空隙部を形成した回転ドラムをして、その中心軸方向に嵌合されホースの端部が接続せる流通管を介して回転自在となし、
(2) 該空隙部には該回転ドラムの捲き戻し機構並びに歯車、係止爪による自動停止装置を一体に収納せしめると共に、
(3) 該自動停止装置の係止爪を回転ドラムの内壁面に回動自在に軸支するとともに発条を介して常時前記歯車の外周面に衝接せしめ、
(4) 又歯車を上記流通管に嵌合固着すると共にその周囲に所望間隔毎に係止爪と係合する歯部並びに該係止爪の先端より軸部までの長さより少しく大に形成された深さの切欠部とを設け、ホースを巻回する際に係止爪が切欠部に強制的に落入されて該歯部との係合が解かれるようにし、
(5) 一方前記回転ドラムを支持した流通管は、該回転ドラムに対し別に設置されると共に流体の流入口を具備したドラム受体に対し回転自在且つ挿脱自在に構成されている以上(1)ないし(5)の構成要件を備えた「ホース捲回具」にあるものと認める。
これに対し、請求人(被告)は、本件考案の実用新案登録出願前に日本国内又は外国において頒布された刊行物である実公昭三八―五二七九号公報、米国特許第三、一七六、九三一号明細書および実公昭三八―一三六六三号公報をそれぞれ甲第一号証、甲第二号証および甲第四号証として提出し、本件考案は、上記甲各号証の各刊行物に記載されたものに基づいて当業者がきわめて容易に考案をすることができたものであるから、これを無効とすべきであると主張している。
そこで、上記甲各号証について検討するに、甲第一号証には、「回転ドラムの外周にホースを多重に巻回し、該回転ドラムを通水管兼用の軸管に回転自在に支承し、前記ホースの内端部を前記軸管の一端に連通接続し、前記回転ドラム内側に発条からなる捲戻し機構を収納するとともに、ドラム外側に制御用レバーを含むドラム停止機構を設け、前記軸管の他端を台板を含む支持機構を経て給水源に接続したホース捲回具」について記載されており、甲第二号証には、「外周にケーブルを多重に巻回した回転ドラムを固定軸に回転自在に支承し、ドラム内側に発条からなる捲戻し機構を収納するとともにドラム外側に歯車および係止爪からなる自動停止装置を設け、前記歯車をドラム側に固定するとともに前記係止爪を固定フレーム壁面に回動自在かつ発条を介して常時前記歯車の外周面に衝接するように軸支し、前記歯車の周囲に所望間隔毎に前記係止爪と係合する歯部並びに係止爪の先端よりその支軸までの長さより少しく大に形成された深さの切欠部を設け、これによつてケーブルを巻回する際に係止爪が切欠部に強制的に落入されて歯部との係合が解かれるようにしたケーブル捲回具におけるドラム自動停止機構」について記載されており、さらに甲第四号証には、「ホース捲回具における通水管兼用軸管を回転ドラムに対し別に設置された流体流入口を有する支持体に接続管を介して接続し、回転ドラムを前記接続管およびアームを介して前記支持体に対して回転自在に支持したドラム支持機構」について記載されている。
以上の甲各号証についての認定のもとに、本件考案(以下前者という)を、甲第一号証のホース捲回具に甲第二号証のドラム停止機構および甲第四号証のドラム支持機構を転用したもの(以下後者という)と比較してみると、後者は前者の前記構成要件(1)ないし(5)に対応する構成をすべて具有するが、下記の点において相違するものと認められる。
(イ) ドラム停止機構が前者においてはドラム内側の空所に設けられているのに対し後者においてはドラム外側に設けられている点
(ロ) ドラム停止機構の歯車および係止爪のドラムおよび固定側に対する取付け態様が両者逆となつている点
(ハ) ドラム支持機構におけるドラム支持腕が前者においては通水管自体で構成されかつ挿脱自在であるのに対し後者においてはアームと接続管とで構成され挿脱自在となつていない点
しかしながら、上記(イ)の点は、一般に巻取ドラムにおいてその内側空所に諸機構を収納することが慣用技術手段であることを考慮すれば、この点に考案の存在を認め難く、また上記(ロ)および(ハ)の点は、作用効果において格別差異のない単純な設計変更にすぎず、これらの点にも考案の存在を認め難い。したがつて、前者は後者に基づいて当業者がきわめて容易に考案をすることができたものと認める。そして甲第一号証のホース捲回具に甲第二号証のドラム停止機構および甲第四号証のドラム支持機構を転用することも、甲各号証のいづれもが、長尺物捲回具という共通の技術に立脚するものであるから、当業者にとつてきわめて容易になし得る程度のことと認められる。
結局、本件考案は、甲第一、二および四号証に記載された事項に基づいて当業者がきわめて容易に考案をすることができたものと認められるので、実用新案法第三条第二項の規定に違反して登録されたものであり、したがつてその登録は同法第三七条第一項第一号の規定によつて、これを無効にすべきものとする。
四 審決を取り消すべき事由
審決は「一般に巻取ドラムにおいてその内側空所に諸機構を収納することが慣用技術手段である」と認定したが、誤りである。これが慣用技術手段でないことは、他の事例を挙げるまでもなく、現に引用にかかる審判甲第一号証および審判甲第二号証がいずれも巻取ドラムの内側空所に諸機構を一体に収納していないことからも明らかである。したがつて、この誤つた認定を前掲として本件考案を当業者が極めて容易に考案できるとした本件審決は違法であるから取消さるべきである。
第三 被告の答弁
原告主張の請求原因事実は、すべて認める。